権利守らずして、推しの幸せなし 「SNSへ芸能人の画像を転載するのは何がいけないんですか?」に対する反応と問題点‪

 10月30日、私の質問箱に「SNSへ芸能人の画像を転載するのは何がいけないんですか?」という主旨の質問が届きました。この質問に対して回答したことをきっかけに、SNS上での著作権著作隣接権、肖像権といった「権利」に関して、様々な議論を呼んでいます。

 こうした堅苦しい法律関係について、特に若い方が真剣に議論して下さる機会というのはそうそうないので、これまでの経緯や話題になったことで起きたこと、問題点などを記録に残しておこうと思います。

  なお、時系列がそこそこ長いので、興味のない方は私が言いたいことをまとめた【最後に】まですっ飛ばして頂けますと幸いです。

【時系列】

 まずは時系列で「SNSへ芸能人の画像を転載するのは何がいけないんですか?」に回答するまでを箇条書きにしてみます。


(1)「なぜ画像等の無断転載をしてはいけないのか」という質問が私の質問箱に届く

(2)質問に対して回答‬(回答内容は一般論であり常識的な知識です)‬

(3)回答が反響を呼び、一部の人がアイコンやヘッダーを変更するに至る

 (※)回答の内容については、ツイートしている通りなので、画像を下記に添付しておきます。

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【その後起きたこと:いいこと編】

 では次に、質問への回答後起きたことと、その補足を箇条書きでまとめます。

(1)識者が回答について補足してくれる

 Twitterには文字制限があり、かつ、画像で行った回答も端的なものですから完璧ではありません。そんな中、新聞社の記者さんやWebライターさんなどが私の回答で足りていないところや正式にはどういう法律の名前なのかといった部分を補足してくれていました。これについては大変ありがたいことだと思いますし、皆さんも識者の色々な見解を知るきっかけになったと思います。

 

(2)Abema Newsからツイートと画像を紹介したいという連絡が来る

 ツイートが2000件程度RTされたころに、Abema Newsさんから連絡が来ました。内容は10月31日の放送で、当該のツイートと画像を紹介したいというもの。結果的に北朝鮮がミサイル発射を発生し、放送日差し替えとなりましたが、一般メディアの目にも留まる程度に話題を呼んだことが分かりました。

 

【その後起きたこと:なんだかなぁ編】

(1)私が肖像権・著作権の侵害等についてやめるよう求めているという情報が拡散

 ツイート投稿から現在に至るまで、私としては「各権利についての理解を深めてほしい」という姿勢で、そのようなことは個人として強く求めていないのですが、複数回「Kikkaさんがダメだって言ってた」というツイートを目にしました。なぜこのような意見が見られたのか、次項に続きます。

 

(2)大量に届いた質問で質問箱がパンクし閉鎖

  「これは大丈夫ですか?」「こういう場合はどうなりますか?」という質問が数十件~100件近くきました。全員に差異はあれど、ほとんどが重複質問だったので、回答するのには相当苦慮しました。ぶっちゃけて言うと「もう答えた」質問ばかりです。

 しかし、一般的/常識的な内容とはいえ、個別に回答していくことよって、私が正解か不正解かを決める“先生”のような立ち位置となってしまい、これが後々「Kikkaさんがダメだって言ってた」と反発を生む要因に一つになったのではないかと考えています。

 ただ回答をよく見て頂ければ分かると思うのですが「やめておいた方が良い」「推奨されない」といった表現を用いていることがほとんどで、厳密に「法令違反なのですぐ改めましょう」といった回答をしていることはなかったと思います。

  いずれにせよ想像をはるかに超える量の質問が一斉に寄せられたことや、それに回答することでTLが回答だらけになってしまうこと、何度答えても同じ質問が寄せられることなどこれ以上質問箱を続けるメリットがないと判断し、質問箱を退会・閉鎖するに至りました。

 

(3)意味はわからないけれどもとりあえずアイコンを変更し、一定期間が過ぎたら元のアイコンに戻す予定だいうツイートが多発

 これが最も理解できない投稿でした。「周りがやっているから」という理由だけでアイコンを一時的に変更しても、結局将来的に権利侵害を行うとわざわざ予告をしているのです。分かりやすく言うと、「周りがタバコをやめて言っているので禁煙します。でも明後日からはまたタバコを吸おうと思っています」と宣言しているようなものなのです。

 もし仮にそんな宣言をしている人を見かけたら、普通の人は「なぜそんなことをするの?」「一時的なことなのなら別にやめなくていいんじゃない?」と聞くと思います。

 ただ今回の場合は権利侵害という難しい問題が絡んでいるので事態はそう簡単ではありません。私が10月31日にツイートした下記のメッセージも本質から外れているのでは? という指摘を受けるに至り、11月1日に削除しました。

「しばらくしたらアイコン戻す予定w」って言ってる方何人か見ましたけども“自分の意思”がないのかなぁ。
別に変えたくなきゃ変えなくていいと思うんですよね。周りに流されて変えました!と表明するのはちょっと違う気がするなぁ。というネット老人会正会員の意見です。

 このツイートで何が言いたかったのかというと、本質が理解できていないとまた同じことを繰り返すので、「自己責任で権利侵害を続ける」という極めて意思の強い方は特にこの流れに乗らなくてもいいのではないですか、ということです。年齢差はあれども、みなさんSNSを利用するくらいには大人なわけですから、自己判断できると思うのです。

 一部を除き、著作関連の権利のほとんどは「親告罪」です。しかしながら日本では2018年12月30日に「著作権法における非親告罪化」について法改正が行われました。具体的には「行為の対価として財産上の利益を受ける目的」と「(有償著作物等の提供若しくは提示により)著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的」について、親告罪ではなくなったという事です。

 これを知ってもまだ権利侵害を続けたいと言われたら、「自己責任で」というほかありません。ただ「大手芸能事務所が個人に権利侵害の申し立てするわけはないので、どんどん権利を侵害していい」という事にはなりません

 また海賊版サイト「漫画村」事件で明らかになったように、対個人であっても企業が権利侵害について被害を申し立てているケースは皆さんが思っているよりもはるかに多いですし、過去にも記事になっていますが、無断転載を行った者が権利者に訴えられて90万円を支払ったケースも存在しています。そこまでのリスクを負って権利を侵害するという意図が私にはやっぱり分かりません……。

 

(4)拡散しているツイートの内容(引用RTなど)は肖像権等の権利を盾にしているが、本質的には「ねとらぼが宣伝を円滑に行えるようにうまく丸め込んだものではないか?」という意見が散見される

 今回の質問者はねとらぼとは全く無関係の方で、たまたまきた質問に対して、私が丁寧に回答したに過ぎません。引用RTはあくまでも「権利侵害をせずにツイートできる一番オススメの方法」と紹介しただけなので、引用要件(サイト名明記、URLの明示、画像を加工しない等、詳しくはググってください)を満たすなど別の方法を検討していただくといいのではないかと思います。

 ただ重ねてになりますが個人的には法人個人を問わず、引用RTがオススメです。便利なものはどんどん使って行くといいと思います。

 

【ツイート拡散で浮かび上がった問題点】


(1)正義感にかられた自警マンの出現
 ツイートを見た正義感の強い人が、権利侵害者に対して執拗に私のツイートを引用した上で投稿を削除するように迫るなどし、トラブルが発生しました。正義感の強さについては理解できますが、こうした行動は本意ではありません。私は人に対して「アイコンを変えろ」だとか「こうしろ」とは言っていないのです。あくまでも個人が自己責任で自分の考えを貫くことを尊重します。
 なお一部私の投稿を元に過激な投稿を繰り返していた方、ツイートのスクリーンショットを無断使用していた方に対しては、個別に連絡し、現在法的措置を含めた話し合いを行なっています。削除したからOK、ということではなく、「○月●日~×月■日まで権利侵害を行っていた」という事実は消えず、この責任は負うことになります。


(2)権利者から申し立てがなければ権利侵害はグレーゾーンでセーフという意見が出てくる
 前述の項でも触れましたが「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とか「集団万引き」とかの心理に近いのかなと思います。法律で禁じられているから、という以前にモラルの問題です。個人的には「バレなきゃOK」の精神は快く思いませんし、アイコンに他人を使用して発言することは「著作者人格権の侵害」にあたる可能性があるので本当にオススメしません。

 例えば下記のツイートの状態のとき、あなたは黙って見逃してあげるのですか? ということです。

 トラブルを回避するという観点では、やはりルールや法律を守った方が良いのです。


(3)正論を言われたせいでSNSが使いにくくなったという意見が上がる
 何事にもルールがあります。画像を無断転載することが本当に応援になるのか。今一度よく考えていただければと思います。また権利侵害をしている人の大多数が「ダメなことなんだよね」「いけないこととは分かっているけど」とツイートしていました。ダメなことなのだと分かっているのなら、外野にとやかく言われずともやるべきことは見えていると思います。

【最後に】

 色々とお話してきましたが、私の言いたいことはこれだけです。

  権利守らずして、推しの幸せなし。

 皆さんにはいわゆる“推し”がいますか? 例えばその推しを応援しようと思ったときに、どんなことができるでしょうか。グッズを買う。SNSのコメントで応援する。色々な方法があると思います。

 近年ネットの発達によって、一般人と芸能人の距離が縮まったり、「遭遇情報」といった感じで、芸能人の目撃情報を目にする機会が増えてきました。では、「本人に直接応援の気持ちを言いたいから遭遇情報をもとに待ち伏せてやろう!」という人がたくさん出現したらどうなるでしょうか。自称ファンが海賊版サイトで音源を落としまくり、CDが売れなくなったらどうなるでしょうか。

 

 推しは次第に活動が出来なくなると思います。

 

 芸能人だからプライバシーはない。学生でお金がないから海賊版で十分。こうした意見の人がいるのは事実です。でも様々な権利が守られているからこそ推しが輝いているのだということを心の隅っこに置いていて頂けたらと思うのです。

 今回発生した「権利侵害のアイコン変更ブーム」に関して、気付いた方が行動に出たというのは素晴らしいことだと思いますし、大多数の人は問題点の本質に気付いてくださったと思います。一方で私の言葉足らずであったり、正義感の強い方が「権利侵害をやめてください」と言いまわるといった行動に出たりで、マイナスの側面が生まれたこともありました。

 しかしながら総合的に考えると、いろいろな方が色々な見解、意見を述べるきっかけとなった「SNSへ芸能人の画像を転載するのは何がいけないんですか?」は非常に良い質問だったのだと思います。

 

 アーティストや作品作りをするクリエイターにとって、「成功」とは色々な形があると思います。私は「○○のファンはすごくマナーが良いね!」という話が出るのも「成功のひとつ」だと思っています。自分が推している作品・グループにとって何ができるか、自分自身も改めて考えたいなと思いました。

(Kikka)