「全部僕のせいだ」は“黒い羊”の本心か 8thシングルから読み解く秋元康さんの残酷性と欅坂46の魅力

 欅坂46の8枚目となるシングル表題曲「黒い羊」が1月21日、「未来の鍵を握る学校 SCHOOL OF LOCK! 」(TOKYO FM系/以下、SOL)にて宇宙初フルオンエアされました。欅坂46史上、最もメッセージ性が強いともいえる本楽曲について、MV・歌詞公開前時点での考察を記録しておきたいと思います。

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8枚目シングルの発表画面(欅坂46公式サイトより)

●「黒い羊」を表題曲にすることの意味
 「黒い羊」を初めて耳にしたときの感想は「角を曲がった感じがした」でした。

  
 今回まず注目したいのは、これまで“インパクトの強い楽曲”を表題曲に、“メッセージ性の強い楽曲”をカップリング曲に、という傾向が強かった欅坂46が、「『黒い羊』を表題曲に持ってきた」ということ。これはグループとしての進化を表しているのか。それともある意味での決意表明なのか。単純に「良い曲」では片付けられない何かを感じます。

●作曲家は誰だ 
 雑踏音からのフォークソングを彷彿とさせる語り、楽曲中盤での“赦し”を得るような場面、そして最後は新しいドアを開けるかのような効果音となかなかトリッキーな構成の本楽曲。複雑なメロディー構成はまるで、1本のショートフィルムを見ているかのようであり、従来のアイドルソングでは感じられないような「起承転結」を提示されているように感じます。 


 そんなメロディーに突き刺さるような強い歌詞が重なると、さやわかとは言い難い聴後感になるかと思いきや、何度も聞き返したくなってしまうのは、30秒近くある終盤イントロの締め方が秀逸だからでしょうか。本当に不思議です。 


 そんな名曲を作り上げたのは誰なのでしょうか。冒頭のどこか寂し気で儚いピアノイントロ、そして中盤からの激しいベース音は「エキセントリック」「避雷針」「角を曲がる」の系統に近い、むしろ同じ系譜のようにも感じられます。そのため現時点では本楽曲の作曲を手掛けたのは「ナスカ」のお二人ではないかと推測しています。なおネット上でも現時点(1月26日時点)では「ナスカ」の名を挙げる方が多いようです。

●「Knock」「Know」「No」――「全部僕のせいだ」は黒い羊の本心か 

 本楽曲最大の衝撃ポイントは平手友梨奈さんが絞り出すような声で紡ぐ「全部僕のせいだ」というフレーズ。聞くたびに胸が締め付けられるような苦しい場面ですが、私は直前のフレーズが何なのかによって全く意味合いが異なるのでは? と考えています。

 可能性があるのは「Knock」「Know」「No」のいずれか。私なりに解釈したそれぞれの説に触れていきます。

(1)Knock Knock No No 全部僕のせいだ 説
 白い羊たちが孤立して閉じこもる黒い羊を救おうとドアを“Knock”しに来る。しかし行き場がなく、急かされたことで白い羊たちにも追い詰められたと感じた黒い羊は「みんなの元へは行けないよ」と(“No”と)拒絶し、こうした状況を作ったのは“全部僕のせいだ”とこぼす。

(2)Knock Knock Know Know 全部僕のせいだ 説
 白い羊たちが孤立して閉じこもる黒い羊のドアを“Knock”しに来る。このとき、白い羊たちの善意を理解している黒い羊たちは「わかってる……わかってるよ」と自分を責めながら、“全部僕のせいだ”と叫ぶ。

(3)Knock Knock Know No 全部僕のせいだ  説

 白い羊たちが孤立して閉じこもる黒い羊のドアを“Knock”しに来る。そのとき白い羊たちは黒い羊に「君の気持はわかってるよ」と黒い羊を思いやるが、黒い羊は「(自分の気持ちなんかみんなに)わかりっこないよ」と思いつつも、白い羊に自分の気持ちが伝わらないのは“全部僕のせいだ”とこぼす。

(4)No No No No 全部僕のせいだ 説 

 白い羊たちが黒い羊に「ちがう、こうなったのはあなたのせいなんかじゃない」と群れを成して伝えに来るが、黒い羊は「そんなわけがない」“全部僕のせいだ”とこぼす。

 私が最も推しているのは「Knock Knock No No」説ですが、直前のフレーズによって、「全部僕のせいだ」が黒い羊の本心から出た言葉なのか、それとも白い羊たちが図らずも黒い羊を追い詰めて言わせてしまった言葉なのか、その解釈が変わるのは非常に面白い点だと思いました。 

 一方で平手友梨奈さんにこのフレーズを歌わせる「秋元康さんは本当に酷な人だな」とも思いました。2018年は平手さんにとって非常に苦しい1年だったのではと感じている人は多いはず。そんな彼女こそが“黒い羊”であると連想できる歌詞を今、このタイミングであてることにどういった意図があるのか、何を伝えようとしているのかは秋元さんやメンバーたち、当事者にしか分かりません。しかし、そのメッセージを伝えようとするあまり、メンバーたちの心に傷がつくのではと余計な心配をしてしまうのもまた事実なのです。

 

●聴き手は白い羊であり、黒い羊

 聞けば聞くほどに心がえぐられるようで苦しくなるのに、それでも「黒い羊」をまた聴きたくなってしまうのは、残酷さの中に美しさを感じてしまうのは、聴き手が無意識に目配せしてる白い羊だからなのでしょうか。そして聴き手である白い羊も心の中にひっそりと黒い羊を飼っているからなのでしょうか。

 

 しばらくはMV公開を楽しみに待ちつつ、もう少し考察を続けたいと思います。

Kikka